借地非訟事件とは、「借地を巡る紛争を未然に防止すること」、「地主と借地権者の間の利害の調整」、さらに「土地の合理的利用の促進」のために、地主・借地権者の話し合いに代わり、裁判所が変更などの許可を審議して決める制度です。
借地条件の変更や建物の増改築の許諾などで、地主と借地権者がもめてしまったり、話し合いが進まないといったときに行われます。
借地非訟事件の対象となる契約
借地非訟事件で扱えるのは、旧借地法と借地借家法に定められた借地権です。そのため対象となる契約は、「建物の所有を目的とする土地貸借契約」と「地上権設定契約」になります。
種類については、以下をご参照ください。
借地非訟事件の種類
借地非訟事件の種類は次の6つです。
1. 借地条件の変更
建物の種類、構造、規模又は用途を制限する旨の借地条件がある場合において、法令による土地利用の規制の変更、付近の土地の利用状況の変化、その他の事情の変更により現に借地権を設定するにおいては、その借地条件と異なる建物の所有を目的とすることが相当であるにもかかわらず、借地条件の変更につき当事者間に協議が調わないときは、裁判所は、当事者の申し立てにより、その借地条件を変更することができる。
借地借家法17条1項
2. 増改築の許可
増改築を制限する旨の借地条件がある場合において、土地の通常の利用上相当とすべき増改築につき当事者間に協議が調わないときには、裁判所は、借地権者の申し立てにより、その増改築について借地権設定者の承諾に代わる許可を与えることができる。
借地借家法17条2項
3. 借地契約更新後の建物再築可
契約の更新後において、借地権者が残存期間を超えて存続すべき建物を新たに築造することにつきやむを得ない事情があるにもかかわらず、借地権設定者がその建物の築造を承諾しないときは、借地権設定者が地上権の消滅の請求又は土地の賃貸借の解約の申し入れをすることができない旨を定めた場合を除き、裁判所は、借地権者の申し立てにより、借地権設定者の承諾に代わる許可を与えることができる。
借地借家法18条1項前段
4. 土地の賃借権譲渡又は転売の許可
借地権者が賃借権の目的である土地の上の建物を第三者に譲渡しようとする場合において、その第三者が賃借権を取得し、又は転借しても借地権設定者に不利となるおそれがないにもかかわらず、借地権設定者がその賃借権の譲渡又は転貸を承諾しないときは、裁判所は、借地権者の申し立てにより、借地権設定者の承諾に代わる許可を与えることができる。
借地借家法19条1項前段
5. 建物競売等の場合における土地の賃借権の譲渡の許可
第三者が賃借権の目的である土地の上の建物を競売又は公売により取得した場合において、その第三者が賃借権を取得しても借地権設定者に不利となるおそれがないにもかかわらず、借地権設定者がその賃借権の譲渡を承諾しないときは、裁判所は、その第三者の申し立てにより、借地権設定者の承諾に代わる許可を与えることができる。
借地借家法20条1項前段
6. 建物及び土地賃借権譲受の許可
土地の賃借権譲渡又は転売の許可(借地借家法19条1項前段)、建物競売等の場合における土地の賃借権の譲渡の許可(借地借家法20条1項前段)があった場合において、裁判所が定める期間内に借地権設定者が自ら建物の譲渡及び賃借権の譲渡又は転貸を受ける旨の申し立てをしたときは、裁判所は、同項の規定にかかわらず、相当の対価及び転貸の条件を定めて、これを命ずることができる。この裁判においては、当事者双方に対し、その義務を同時に履行すべきことを命ずることができる。
借地借家法19条3項、20条2項
●介入権とは
上記6つのうち
4. 土地の賃借権譲渡又は転売の許可
5. 建物競売等の場合における土地の賃借権の譲渡の許可
については、「賃借権を借地上の建物とともに買い取る権利」が地主に優先的に与えられています。
これを「介入権」といいます。
介入権行使の典型ケース
「借地権の評価額が地主が考えていた価額よりも低い場合」、地主が介入権を行使して借地を買い取るケースが多くあります。
地主にとっては、安価で借地関係を解消できて完全な所有権を取得することができるなら、第三者への借地権売却を承諾するよりメリットが大きいためです。
借地権の評価額が低いと、借地権の譲渡承諾料も連動して安くなります。譲渡承諾料という収入と、借地買い取りによって生じるメリットを比較し、買い取った方がメリットが大きければ、地主は当然買い取りを選択します。
その際に有利に働くのが「介入権」なのです。
●借地非訟事件の手続
東京地方裁判所民事第22部を例に、借地非訟事件の手続きを説明します。
借地非訟事件の手続
1. 民事第22部に借地権者(申立人)が、申立書を提出。
2. 裁判所が、第1回審問期日を決定。同時に申立書を土地所有者(相手方)に郵送。
3. 第1回審問期日で当事者(申立人及び相手方)から陳述を聴取。必要に応じて以降の審問期日を実施する。
4. 裁判所が、鑑定委員会に許可の可否・承諾料額・賃料額や建物および借地権価格等について意見を求める。
5. 鑑定委員会が、当事者立ち会いのもと現地を調査。
6. 鑑定委員会が裁判所に意見書を提出。裁判所は意見書を当事者に送付。
7. 裁判所が、最終審問期日を開催。当事者から意見を聴取。審理を終了させる。
8. 裁判所が決定書を作成し、当事者に送付。
上記1~8の借地非訟事件の手続きは、申し立てから決定まで約1年程度の期間で行われるのが通例です。
借地非訟事件は解決までに時間はもちろん、多大な労力と弁護士費用がかかるほか、地主との関係が確実に悪化するという大きなデメリットがあります。そのため、中央建物では円滑で円満に解決できるよう、話し合いでの解決をサポートしています。